舞台芸術をマーケティングでサポートしたい!――「Marketing Native Career」インタビュー・関口由実(元ネスレ日本)

仕組みを作って、常に改善・効率化・関口 由実
Marketing Nativeのキャリア支援事業「Marketing Native Career」。 おかげさまでキャリアアップしたいマーケターと、優秀なマーケティング従事者を探している企業から多数ご登録をいただいております。

今回インタビューしたのは、ネスレ日本およびネスレネスプレッソ出身のマーケターで、Marketing Native Careerに登録している関口由実さんです。

関口さんは舞台芸術をマーケティングでさらに活性化させるサポートをしたいという夢を追いつつ、現在はマーケターとしてのキャリアを活かすべく業務委託としてAIと金融工学で知られる株式会社MILIZEで働いています。

関口さんはなぜMILIZEで働こうと考えたのでしょうか。関口さんに勤務先選びのポイントや業務委託のマーケターとして働く際の心得などについて話を聞きました。


業務委託で働く際に重要な勤務先選びのポイント



――初めに「Marketing Native Career」に登録した理由や良かった点、改善点などを教えてください。

転職活動を行うにあたって、もともとは「1つの会社で正社員として働きつつ、他の会社の業務委託としても並行して働きたい」と考えていました。 Marketing Native Careerは登録した複数の転職サイトの1つで、運営会社のCINCで働く一橋大学時代の先輩がFacebookに投稿したサービス案内を見て知りました。

改善点はすぐに思いつきませんが、良かったのは担当者の方がしっかりとお話を聞いてくださったことです。 最初は正社員を希望していたのですが、担当者の方から応援や励まし、提案を頂く中で「正社員だけが選択肢ではない」「業務委託として複数の会社で働きながら夢を追求する生き方もある」と考えが変わりました。 丁寧なコミュニケーションを頂き、とてもありがたく思いました。

また、業務委託として働くのは初めてなので、契約まわりの基本的なルールを教えていただいたことも、心強く感じました。


――ありがとうございます。MILIZEさんで働こうと決めた理由は何ですか。

主に3つあります。

まず、チームがとても素敵そうに見えました。オンラインでしか話していませんが、人当たりが良くて礼儀正しく、こんな方々と一緒に仕事をするのは楽しそうだと感じました。

2つ目は、マーケティングの仕組み化をほぼゼロの状態から始められることです。 新卒で勤務したネスレ日本はマーケティングが有名で、ガイドラインやフレームワークが定型化されていました。 一方、MILIZEさんでは自分でレールを敷いてチームを巻き込むところからスタートする必要があり、そこにワクワクしました。

3つ目は、マーケティングチームだけでなく会社全体として業務委託を受け入れる姿勢を感じたことです。 マーケティングチームが業務委託を求めていても、社長があまり熱心でない会社では快適に働くのは難しいと思います。 MILIZEさんは高い技術力などさまざまな強みを持ちながら、さらに大きく成長するためにはマーケティングが重要な要素の1つであると田中(徹)社長ご自身が考えていらっしゃることが伝わってきました。


――MILIZEさんではどのような仕事をしているのですか。

「日本国民をお金持ちにしたい」というMILIZEさんのコンセプトを実現するための戦略やサービス作りを、マーケティングチームの社員の方々と一緒に考えて練り上げています。 STPのセグメンテーションや消費者理解をはじめ基本戦略の策定から携われていますので、やりがいがあり充実しています。


――マーケターとしての関口さんの強み、弱みは何ですか。

数字に強くて論理的思考力に優れていることが強みだと自分では考えています。

もう1つは、関係各部署と折衝しながらチームワークを尊重して物事を進めるのが得意です。
先導するだけでなく、うまく調整しながらみんなで同じ方向に向かうことをいつも考えています。
ただ、このリーダーシップについては未熟な部分も多々あるため、まだまだこれからも磨いていかなければと思っています。

ほかには、マーケターとしてだけでなく、ネスレネスプレッソ勤務時代に担当していたサプライチェーンマネジメントの知見があることも強みだと捉えています。

弱みは各論の経験が浅いことです。 全体を統括して調整したり、根本的な考え方から作り上げたりすることは得意でも、マーケティングリサーチを除くと、Web、SNS、PRなど各論にしっかりと従事してきたわけではないので、これから経験を積んで知識を付けていきたいと思います。

新入社員研修のアイデアがいきなり実現、社内表彰



――経歴を時系列でお聞きします。学生時代にカンボジアでインターンとボランティアをしていたそうですが、なぜカンボジアに?

一橋大学のOBが企画したカンボジアのビジネスツアーにたまたま参加したのがきっかけです。 もともと舞台芸術に興味があり、カンボジアの芸術産業をリードする「Phare(ファー) , the Cambodian Circus」というサーカス団をビジネスツアーの際に知って、ひと目惚れしました。 その後、Phareの人事にコンタクトを取り、半年間マーケティングとカスタマーサービスのインターンシップを行いました。 マーケティングでは主に日本人向けPRやSNS運用に関わり、観客の場内案内が主要業務のカスタマーサービスでは、ショーの最後に行う寄付を求めるスピーチ原稿の改善を行って、観客の劇場体験の満足度をさらに向上させることに貢献しました。

舞台芸術への興味は高校生の頃から強く、大学1年生の夏頃には舞台芸術に仕事として関わりたい、とにかくアメリカのブロードウェイミュージカルの製作現場で働きたいと本気で思うようになりました。 その夢を持ってから、まず小さく経験してみようと思い、大学の商学部で学んだことを生かしながら音大生主演のコンサート企画を行いました。 ところが、必死に取り組んだにもかかわらず、集客が上手くできませんでした。出演したある音大生からは「この演奏会のために私たちも演奏家として真剣に取り組んできたので、もう少し集客を企画側で上手くやってほしかった」と厳しいフィードバックもいただきました。初めてプロの世界の厳しさを実感し、自分の実力不足とマーケティングの重要性を痛感した出来事でした。

このコンサート企画と並行して、ブロードウェイミュージカル製作現場のどの職種で関わりたいかについて、業界構造を調べ、自分の興味を掘り下げながら考えていました。 調べていくうちに舞台芸術の世界にマーケティングの知見が不足しており、どこも集客に苦労していることがわかってきました。 さらに、私自身の中にある、ミュージカルのみならずさまざまな舞台芸術を必要としている人に、生きる希望を舞台を通して届けたいという強い想いにも気がつきました。 これらさまざまな発見が一つになって「舞台芸術のマーケター」を目指そうと思い始めたのです。これが大学2年生の終わり頃のことでした。

とはいえ、舞台芸術は私の趣味でもあります。 趣味に仕事として携わってよいのか、嫌いにならないか、不安な気持ちはまだ残っていました。それで、覚悟を決めるためにも、プロの中に入って中から業界を感じよう、どのように経営されているか知ろうと思うようになりました。 また、普段プロのアーティストとあまり関わりがなかったので、その方たちと働くとはどういうことか、プロのアーティストは何を考えて仕事に取り組んでいるのか知りたいと思いました。 将来アメリカを含む海外を視野に入れていたので、海外で働くことがどういうことか知りたいという興味もありました。 このような経緯で、海外の舞台芸術業界でのマーケティングのインターンを探していたのです。ちょうどその時にたまたま見つけたのがPhareでした。

ですから最初にカンボジアありきだったわけではなく、場所がたまたまカンボジアだっただけです。

――その後、新卒でネスレ日本に入社した、と。会社選びの決め手は何ですか?

舞台芸術のマーケティングに本格的に取り組む前に、マーケティングの考え方やスタンス、ビジネスパーソンとしての基礎スキルをきちんと身に付けたいと考えたからです。 それで、マーケティングで有名な外資系消費財メーカーを中心に就職活動を進めました。ネスレ日本については、当時社長を務めていた高岡浩三さんの影響でメディアから注目されていたタイミングだったことが、企業理解に役立ちました。 調べる中で、ネスレ日本は、「マーケティングとは顧客の問題を解決することである」という考え方を中心に、マーケティングを軸とした経営方針が全社にいきわたっていそうだと思いました。 そのマーケティングの考え方と、CSV(共通価値の創造)の方針に惹かれ、この環境でマーケターとして成長して、いずれ舞台業界に還元したいと強く思って入社を決めました。

――ネスレ日本ではプロジェクトマネージャー、マーケティングリサーチャーを務めたとのこと。実績を1つだけ挙げるとしたら何ですか。

私だけの実績とは言えませんが、「キットカット」で新サービスのテストローンチを成功させたことは挙げていいと思います。 ありがたいことに、イノベーションを起こした事例として社内で表彰していただきました。

始まりは新入社員研修です。当時は内定時に内定者同士がチームを作ってビジネスアイデアを考えて小さく検証し、高岡さんを含む役員の方々の前でプレゼンをするのが入社式の代わりでした。 全4チームとも高岡さんは高く評価してくださり、なんとその場で各チームの製品カテゴリーの担当役員に、「これをビジネスにしてほしい」と仕事を振ったのです。

私のチームはキットカットのアイデアだったので、菓子事業担当の役員に指示が出ました。

関口さんのチームが提案したアイデアを基に実現した企画(2017年11月2日)
『秋の行楽シーズン到来!旅の思い出写真を、その場で「キットカット」パッケージにプリントし、郵送できる新サービス「旅の思い出 キットカット」』
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000068.000004158.html


その後も新入社員研修期間中にビジネスマナーを学びつつプロジェクトを進行し、さまざまな方のアドバイスとサポートを受けながら7カ月くらいかけて完走しました。 当時、このプロジェクトを応援してくださった所属部署の皆さま、何もわからない私たち新入社員にお忙しい中、時間を割いて実行を後押ししてくださった先輩方や取引先の方々には、今でも思い出すだけで感謝の気持ちでいっぱいになります。

ネスレ日本は、アイデアだけでなくそこから先の実行に重きを置いており、それが私も表彰していただいたコンテスト「イノベーションアワード」のコンセプトです。 私自身、1つの企画を実現して世に送り出すまでに、セールス、マーケティング、工場、倉庫、卸、小売、印刷会社、PR会社など社内外でこれほど多くの人が関与しているのだと実践を通して学ぶことができ、とても貴重な経験になりました。 お客さまの課題の本質に向き合う姿勢と会社の業務を統括的に捉える視点を入社1年目から学ぶ機会を作ってくださるネスレ日本は、ありがたい環境だったと思います。

日次売上予測モデルの構築で業務の8割削減を実現



――その後、ネスレネスプレッソに出向してサプライチェーンマネジメントなどを担当したとのこと。では、ネスレ日本、ネスレネスプレッソを通じて特筆できる実績は何ですか。

ネスレネスプレッソ時代に行った「主要なキャンペーンにおける日次売上予測モデルの構築」が私の中では一番大きかったと感じています。 お客さまに楽しんでいただけるキャンペーンを実行しようとすると、「おまけ」の在庫管理などに変数が多くて、業務が過度に煩雑になっていました。 私も疲労が溜まって判断ミスも招いていたこともあり、効率化できる方法はないかと考えているうちに「この業務は計算式で表せるのではないか」と思い至ったのがきっかけです。

――計算式で!数字が得意な関口さんのバリュー発揮ですね。

前日までのデータを貼り付けて少し変数を調節すれば、キャンペーン終了日までの日次売上と在庫を予測できるモデルにしました。 さらにこのモデルをグラフ化して、意思決定に必要な情報をひと目で確認できるようにもしました。 計算式を作るにしてもいろいろな要素があるのですが、毎日確認・調整すべき変数をできる限り少なくすることには特に気をつけました。 大学受験の数学の定石「変数の数を最小限に絞れ」が今になって生きたことに、妙に快感を覚えましたね。 その結果、キャンペーンに関わる私の業務の8割を削減できました。このモデルに使用した計算式などは、過去のキャンペーンの売り上げを分析してパターンを見いだすことで自ら作り出したものです。高校数学を思い出したり統計学を学んだりしながら試行錯誤したのは良い思い出です。

――要するにBIツールのようなものを作ったということですか。

そうですね。BIツールはそのとき導入されていなかったので、Excelで作りました。サイズが巨大化してしまいましたが、キャンペーンに関する各種の数字進捗・予測やリスクをデイリーで見える化できるようになりました。

モデルを一から編み出したのも達成感が大きかったのですが、それ以上に嬉しかったのは、キャンペーンに関わる社内外の関係者のコミュニケーションが非常に円滑になったことでした。 キャンペーンは、マーケティング、セールス、サプライチェーン、お客様相談室、IT、倉庫、ファイナンスなど、多様な専門職が協力しながら進めるいわば総力戦です。Excelは、サプライチェーンの視点だけではなく、自分がマーケティングやセールスだったらどんな数字を見たいかな、どうやったら関係者間のコミュニケーションエラーが減るかな、マネージャーレベルで調整をするときマネージャーはどんなグラフが必要かな、などと想像しながら作っていました。 結果的に、このファイルは、グラフを関係者の皆で見ながら議論・進行する、たたき台の一つとして使われるようになりました。CEO含む経営陣への説明にも時々使用されていたのは嬉しかったですね。

――すごいですね。ほかにネスレ日本、ネスレネスプレッソ時代に学んだことはありますか。

学びが大きかったのは、ネスレネスプレッソ時代に経営陣とサプライチェーンで月1、2回行う「S&OP」(Sales and operations planning)というミーティングに参加できたことです。 そこではセールスやファイナンスの状況をはじめ、在庫やオペレーション上のリスクなどを各マネージャーが集まってシェアするのですが、当時の私の年齢で経営陣と意見を交わすのはネスレ日本ではおそらく難しく、ネスレネスプレッソの規模感だったから可能だったと思います。 そこで各マネージャーがどういう視点を持ってビジネスを捉えているのか、部門ごとのコンフリクトはどこにあるのかなどをリアルに体感したことで、ビジネスの全体像を常に俯瞰して考える視点を養うことができました。S&OPでの学びは自分の中で転換点になっていると思います。

もう1つは、少し小さな話に感じるかもしれませんが、ミスが起こったときに誰かのせいにしないことを学びました。

――どういう意味ですか。

誰かのせいにするのではなく、問題が起きたら仕組みを作ったり改善したりすることが大事だという意味です。 おそらくサプライチェーンマネジメントの仕事をする過程で身に付いた思考だと思います。 仕組み化の重要性は上司が皆、おっしゃっていたこともあり、仮に問題が起きたときでもその人に何らかの事情があったと捉え、責任を問うのではなく、仕組み化すべきだと自分の頭の中に癖づけることができました。

(聞き手・構成:Marketing Native Career、人物撮影:永山 昌克)

Profile 関口 由実(せきぐち・ゆみ)
一橋大学在学中にカンボジアのサーカス団「Phare, the Cambodian Circus」でインターンシップやボランティアを行う。 新卒でネスレ日本入社。プロジェクトマネージャー、マーケティングリサーチャーを務める。ネスレネスプレッソに出向し、サプライチェーンマネジメントの担当などと並行して、YouTuberらが立ち上げた会社「ワイブロ」でアパレルブランド「KAITO YAMAMOTO」をローンチ。 現在、Marketing Native Careerに登録し、MILIZEなどでマーケターとして勤務。