業務委託のマーケターとして働く上で大切なこと、私が考える優秀なマーケターの条件 ――「Marketing Native Career」インタビュー・関口由実(元ネスレ日本)





「Marketing Native Career」の登録者で、株式会社MILIZEで業務委託として働くマーケター・関口由実さんのインタビュー後編です。   ここでは、業務委託のマーケターとして働く際のポイントと、ネスレ日本やネスレネスプレッソ勤務時代に学んだ優秀なマーケターに求められる条件について伺いました。 ネスレネスプレッソで働きつつ、YouTuberのアパレルブランドを立ち上げたという関口さんのパワフルなエピソードと合わせてお読みください。



YouTuber兼バレエダンサーのアパレルブランド立ち上げ



――ネスレネスプレッソで働きつつ、2020年4月から10月までは株式会社ワイブロのブランドマネージャーとして「YouTuberの名前を冠したアパレルブランドの立ち上げ」を行ったとのことですが、またユニークな経歴ですね。



以前から注目していたプロバレエダンサーでYouTuberの「ヤマカイ」さん(「ヤマカイTV」チャンネル登録者数 2021年 7月現在 48.8万人)が会社を設立したことを知ってコンタクトを取り、業務委託でアパレルブランドのローンチを全面的に推進するポジションをいただきました。   実行したのは主に下記の通りです。 ・競合調査と同時に、バレエに関わりのある人にインタビューをしてインサイトを発見 ・ブランドコンセプトとポジショニングを設定 ・倉庫・ OEM先との契約、オペレーションするために必要な全てのルール作り ・服飾専門学校経由でデザイナーインターンを採用、 14の商品をデザインすると同時に仕事の基礎を身に付けられるようマネジメント ・価格とコミュニケーション戦略の策定 ・Webサイトから商品同梱レターまで、ほぼ全てのコミュニケーションをデザイン、作成 ・商品マスター作成と、在庫管理や財務管理のための仕組み構築

――ほぼ起業のサポートという感じですね。なぜこの仕事に興味を持ったのですか。  

ヤマカイさんはアメリカのテキサス州で活躍しているバレエダンサーで、以前からファンでした。実はネスレネスプレッソで働きながらアメリカの大学院受験を目指していたことがあり、当時は私もアメリカに行ったらヤマカイさんと一緒に仕事をしたいと思っていました。大学院受験はうまくいかなかったのですが、ヤマカイさんに思い切って連絡を取ってみたところ、お兄さんと一緒に日本で会社を立ち上げるという話を伺い、仕事を手伝わせていただけることになりました。  

――行動力がありますね。  

ありがとうございます。カンボジアのPhareのときも同じですが、やりたいと思ったら直接コンタクトを取るタイプです。ヤマカイさんがお兄さんと一緒に立ち上げたのは、バレエを広めることを目的としたアパレル事業でした。  

「KAITO YAMAMOTO」 https://www.kaito-yamamoto.com/  

「KAITO YAMAMOTO」というブランドで、「It all starts with ballet」というコンセプトは私が考えました。現在はサイトをリニューアルしたので私は関わっていませんが、以前はTシャツ、パーカー、レオタード、マスクをメインに販売していました。このブランドの服を着た人やSNSの投稿が増えることで、「KAITO YAMAMOTOって何だろう?」「かっこいい服だね」と感じるところからバレエに興味を持ってもらうのが狙いです。  

これを本業のネスレネスプレッソの仕事をしながら副業として同時並行で進めました。  

――パワフルですね。睡眠時間は確保できていましたか。  

私は寝ないとダメなタイプなので、8時間はしっかり寝ていましたよ。平日は朝や昼休みなどの隙間時間、あとは土日をうまく活用していました。睡眠時間が必要な分、土曜日はゆっくり休みつつ、休んだらきちんとメリハリをつけて集中することを心掛けていました。  

――バレエに関わりのある人にインタビューしてインサイトを発見したとありますが、どんなインサイトですか。  

7人に1.5時間ずつインタビューをして、バレエをしていたときの生活やバレエに対する現在の思いなどいろいろなお話を聞きました。全員異なる経験をしていたのですが、コンクールに出場できるのはひと握りの厳しい世界にあって、必ずしもポジティブなだけでなくネガティブな思い出を持っている人が少なくありませんでした。でもバレエが今もその人のアイデンティティの一部を形作っているところは共通していたのです。  

私は、せっかくのバレエの思い出がネガティブな記憶とともにある状態はつらいだろうと感じました。一方、自分では意識していないけど、自然と現れる姿勢の良さなどから「バレエをやっていたでしょ」と言われることがあり、それを少しうれしく感じるなどという繊細で複雑な感情をバレエに対して抱いていました。  

そこで、「It all starts with ballet」というコンセプトで勝負しようと考えたのです。つらいことがいろいろあったし、壮絶な経験をしたかもしれないけど、でもバレエが人生や価値観の一部を形作っていることは素晴らしいことなのだから、喜びも悲しみも全部ひっくるめて今の自分を受け入れるのを後押しするブランドにしようという発想です。確かにデザインは他のブランドと比べて際立って特徴があるわけではないかもしれませんが、「バレエをやっていた・関わっている」というアイデンティティに共感をしてくれた人に買っていただきたいという哲学を戦略にしています。目に見える課題を解決するのではなく、切っても切り離せないバレエと人生の深い関わりを感じられる服という意味を込めました。

優秀なマーケターの条件と業務委託で働くポイント

 

――そんなコンセプトを考えられる関口さん自身が優秀なマーケターだと思います。マーケティングで有名なネスレ出身ということも踏まえて、関口さんが考える優秀なマーケター像を教えてください。  

2つあります。1つは、マーケティングの仕事はいろいろな部署の関係者との調整が必要で、時には自分を見失うこともあると思うのですが、それでも最後は生活者に戻れる人。  

――「自分を見失う」とはどういう意味ですか。  

それぞれの部署の人たちからいろんな要望を受けますし、「こんなの売れるわけがない」と言われることもあると思います。それでも最後は生活者の人がどう思うか、どういうふうにお客さまの人生をポジティブに変えられるかを考えて結論を出せる人はかっこいいと感じます。私自身、人の人生を豊かにしたり良い方向に変えたりするきっかけ作りをマーケティングを通して行いたいと考えていますので、そう感じるのかもしれません。   もう1つは、とはいえ生産者側にはいろんな関係者がいますので、その人たちの思いを酌んで、お客さまに届けられる人です。サプライチェーン、生産者、フロントラインに立っている人たちなどたくさんの関係者がいる中で、それぞれの思いを酌めないマーケターではみんな離れていくと思います。関係者それぞれの思いは噛み合わないかもしれませんが、共に強い思いがあるからこそ主張されるわけで、マーケターはきちんとその点をリスペクトすべきだと、私もいつも肝に銘じています。 2つのポイントを両方とも実現するのは確かに難しいことですが、それだけに生活者を最優先に考えつつ、同時に関係者の思いをしっかりと届けられる人はすごいと思います。2つとも日頃から意識しておかないとなかなか実現できないかもしれませんが、あきらめずに両方を追求し続けることが一緒に仕事をしているチームに対する恩返しの1つのような気がします。そして、その姿勢は必ずお客さまに伝わると思うのです。  

――いいお話ですね。では、関口さんのこれからの目標や夢を教えてください。  

これまでに身に付けたマーケティングの知見を活かしながら、舞台芸術を、まだ届いていない人も含めて世界中の人々に届け、人々に希望を与えられるような仕組み作りやサポートに関わっていきたいと考えています。さまざまな経験を経て、夢を持った初期の頃の「どうしてもブロードウェイミュージカルの製作現場に」というこだわりは、今はなくなりました。国籍やジャンルを問わずオープンに、ご縁があった作品や団体に携わっていきたいなと思っています。   コロナ禍によって、舞台芸術業界は、歴史的に見てもかつてないほどの窮地に立たされました。現在も、世界中の関係者皆が、不可抗力の中公演実務に大きな制限がかっていても、アートの灯を絶やさないよう懸命に試行錯誤しています。私も、マーケターとしてどのようにこの苦境に立ち向かうか、情勢安定後にどのような世界を作るか、常日頃考えています。私一人の力は小さいかもしれませんが、アートの力を信じて、柔軟に前に進んでいきたいと思います。   このコロナ禍で以前にも増して意識するようになったのは、舞台芸術だけでなく、さまざまな業界で仕事をしながらキャリアを作っていくことの重要性です。そのほうが視野も広がりますし、舞台芸術のマーケティングにも結果的に貢献できるはず。そのことをネスレやMILIZEさんの仕事などを通して学びました。正社員として転職するか、業務委託を続けるかは未定ですが、いろいろな業界を行ったり来たりしながらその狭間で貢献していきたいと思います。

――最後にMarketing Native Careerを見ている方に、業務委託のマーケターとして働くという点でアドバイスをお願いします。  

チームの一員として気をつけているのは、「報・連・相」をなるべく密にすることです。もう1つは、正社員ならおそらく見えるであろう社内の関係者の皆さんの存在をきちんと想像して対処することです。MILIZEさんは技術力が相当高いと思うのですが、リモートワークという状況もあって、私からはマーケティングチームの方々しかなかなか捉えられません。それでもネスレ時代の経験から技術者の方々をはじめ社内のさまざまな関係者の存在を想像の中で見据えながら仕事を進めることを常に意識しています。   そういう点でもMILIZEさんは非常にコミュニケーションを取りやすく、安心して働ける会社だと感じています。  

――活動的な関口さんの人生はこれからも波乱万丈、面白いことがいろいろ起こりそうです。ますますのご活躍を期待しています。  

(聞き手・構成:Marketing Native Career、人物撮影:永山 昌克)

関口 由実(せきぐち・ゆみ)
一橋大学在学中にカンボジアのサーカス団「Phare, the Cambodian Circus」でインターンシップやボランティアを行う。新卒でネスレ日本入社。プロジェクトマネージャー、マーケティングリサーチャーを務める。ネスレネスプレッソに出向し、サプライチェーンマネジメントの担当などと並行して、YouTuberらが立ち上げた会社「ワイブロ」でアパレルブランド「KAITO YAMAMOTO」をローンチ。 現在、Marketing Native Careerに登録し、MILIZEなどでマーケターとして勤務。